R18。
一部マニアック(排泄等)な表現が御座いますので、苦手な方はご注意下さい。







甘露の泉


「辛い!これ、辛いよニア!」
乱暴にフォークを振り回し、もさもさと食べ物を口に突っ込みながら、メロは始終文句を言っていた。
「甘い物ばかり食べるから、味覚が麻痺しているんでしょう」
「違うってニア、ほんとにこれは塩辛いし、こっちはペッパーのかけすぎだし…ああもう、ろくな料理がないんだ、ボロいカフェってのは!」
知ったような口をきいて、中和のつもりか租借しながらホットミルクティーをがぶがぶ飲んでいる。いくらなんでもラザニアにミルクティーは気持ちが悪いだろう。考えると食欲がなくなるので、ニアはなるべくメロを見ないようにした。
「ふー、腹いっぱい…あ、ワイン」
一通り料理を食べ散らかすとメロは満足した様子で、グラスに半分ほど残っていたワインをくっと飲み干した。

二人が会うのは半年ぶりだった。
少し外の世界に慣れ、気取ったところが見え隠れする以外には、メロは背丈も印象もあまり変わらない。施設にいた頃よりも体にあった服を着るようになったので、多少痩せたような気はしたが、食欲は相変わらずだ。ロジャーが金を持たせてくれたから、と、施設から出かけてきたニアが言うと、メロは遠慮無く食べたいものを食べたいだけ注文した。施設から行くような高級な店ではなく、場末の安い食堂だったので、大した額にはならない。
メロがロジャーの金で会計を済ませている間、ニアはトイレに行っていた。
「お待たせ、メロは行かなくていいんですか」
「帰ってからでいーい」
ワインで多少ご機嫌のメロは、軽い足取りでカフェを出た。
同じくこの町に、安い宿に部屋をとってある。ボロっちいけど昔はいい宿だったんだぜ、と、メロは知ったかぶりをした。

かなり夜遅く帰ってきた若い二人に、フロントはなんの注意も払わずぞんざいに鍵をよこした。やっと眠れる、といった様子で、年老いた管理人は奥へ引っ込んでいく。
二人は寝静まったホテルの、ひとつしかないエレベーターに乗り込み、3、のボタンを押した。レトロな仕様のエレベーター内で、メロはニアと目を合わせずに沈黙していた。
施設の頃のように、また抱き合って眠るのだろうか、今夜は。微かな期待が二人の間に流れているのがはっきりわかって、妙に居心地が悪かった。

ガゴン…
機体が一揺れして、エレベーターの上昇が止まった。着いたのかな、と思う間もなく、室内の電灯は消え、代わりにうすら赤い光が点灯する。一瞬二人に緊張が走った。
「…止まりましたね」
「……」
「地震などではなさそうですね」
ニアの声はいつもと変わりない。
「只の故障だろ」
言いながらメロは、非常ボタンを躊躇なく押した。
待っていれば先程の管理人と一緒に、ビルメンテナンスの業者か何かが飛んでくるだろう。腹のふくれて眠くなったメロは、落ち着いて隅に腰を下ろした。

何分経ったのか、どちらも時計を持たないので見当が付かない。
救助が到着するであろう時間は、とうに過ぎていた。ニアの横で無防備に眠り込んでしまうのは癪なので、メロは適当な話を続けていたが、話題もそろそろ尽きてきて口数は減る一方だ。
「遅いですね…何をやっているんだろう、来るのであればもうとっくに」
流石のニアも待ちくたびれて、珍しく思考を垂れ流す。
ボロいホテルだ、24時間体勢の遠隔監視など、導入していないに違いない。
「もう一回押してみたら」
メロが短く促すとニアは大儀そうに立ち上がり、非常ボタンを強く押した。



やばい。
何度かボタンを押しながら首を傾げているニアに気取られないように、メロはそっと足を寄せる。寄せてはみたが落ち着かず、反対の足をまた体に寄せた。
(…トイレ…いきたい…)
「メロ」
「何」
大量に料理を注文して、がつがつ食べてがぶがぶ飲んだ。その挙げ句トイレに行かずに帰ってきて、今になって我慢しているなんて、カッコ悪すぎる。ニアには絶対に知られたくない。
メロは努めて平静を装った。
「諦めるしかありませんね…今夜はここで寝ましょう。きっと明日の朝、フロントの人が起きるまでこのエレベーターは開かないと思います」
途端にメロの時間が、何倍にも間延びして重くのしかかる。一秒がまるで永遠のよう。
そわそわ落ち着かない体を、重心を何度もずらし誤魔化すが、一旦坂を転げ始めた欲求は容赦なく膨れあがり、メロは絶望的な気持ちになった。
ミルクティーなんて飲まなければよかった、なんて今更だ。
「…メロ、どうしたんですか」
返事をしないメロを気遣うニアの声。馬鹿、こっちを見るな。メロは体を固くして、動きを止める。そうすると余計に尿意だけが響いた。
「なんでも」
目が慣れて暗がりでも表情はよく見える。ニアはもうトイレに、行きたくなったりしないんだろうか。さっき行ってたもんな。きっと今の自分は酷く滑稽だろう。冷や汗をだらだらかいて、トイレのことばかり考えているなんて、まるで小さなガキみたいじゃないか…。

「メロ」
ふいにニアが、メロの頬に手を伸ばす。あ、キス、と思う間もなく、ニアはメロに深い口付けを施した。だが、メロの舌は強ばってそれどころではない。
「…いやですか」
「…おまえ、こんな状況でよくそんな」
「どうせ部屋に戻ればするつもりでしたし」
ニアは強引にのしかかる。
「…う…」
体重で腹が圧迫されてメロは思わず呻いた。ニアは何も気付かずにメロの体に吸い付き始める。
「だめだ、どけ、ニア」
「いやです」
かたや冷や汗、かたや獣の乱れた呼吸。もうこの状況を滑稽だなどと思う余裕もない。いっそニアを突き飛ばして、エレベーターの片隅に思い切り放尿してしまおうか。
そう思った矢先に、ニアの指がメロのパンツのホックを外し、ジッパーを下げた。あ、とメロは思う。ローライズのパンツの締め付けから解放されて、メロは少しだけ楽になった。ニアは、はくっと音を立てて、半年ぶりにメロの萎えた性器にかぶりつく。強く吸い上げて舌で責め立て、ニアは興奮しきっているようだった。
「あっ」
外気に触れた下腹と、多少乱暴な愛撫にメロは一時気をそがれ、少しだけニアの口内にあるものに血があつまる。見計らってニアは優しくそれをすすり、舐め上げ、見事に立ち上がらせた。
不思議なことに先程までの尿意は腹の中に閉じこめられて、代わりに快楽がメロを襲う。
少しだけ空きのできた頭で、このままニアとしていればそのうち忘れられるかもしれない、水分は汗になって出ていくだろう、と思った。
ぎゅっと目を閉じ、ニアの舌を一心に感じる努力をする。柔らかく、厚ぼったいニアの舌。先端からその下のふたつの膨らみを通り、奥の隙間まで、丁寧に往復しているニアの舌。メロはじんわり汗をかいて、あ、あ、あと小さくため息を吐いていた。先走りを掬い取り、入り口に擦り込むことを何度か繰り返してから、ニアは埋めていた顔を離した。そして指をしゃぶり、粘度の高い唾液を絡ませて、そっとメロの入り口に触れた。慣れたそこはさしたる抵抗もなく、ニアの指を一本飲み込んだ。途端、
「!!!」
腹にため込んでいた水分が、猛スピードで再びメロを支配する。立ち上がっていた性器はへなへなと萎え、メロは顔面蒼白、言葉も出ない。
「だ、め、だ…ニアっ!」
じたばたと手足を動かすメロに驚き、どうしたんですかと声をかけると、メロは蚊の鳴くような声を絞り出し、「トイレ」と答えた。
「…トイレ、ですか…」
ようやく事態の飲み込めたニアはそう呟くと、黙り考え込んだ。
メロは羞恥にまみれて体を捩った。もう限界だ。がたがたと手が震え、情けなさに涙が出た。はじめから素直に「行きたい」と言っていれば、事態は違っていたかもしれない。
暫く経ってニアの優しい声が降りかかる。
「メロ、いいですよ」
なにが!メロは唇を噛む。ニアはおもむろにずり下がり、再びメロの股ぐらに顔を沈め、萎えた性器に口付けた。
「おま、なにしてっ」
そして優しく、手のひらでメロの腹をひと撫でし、
「出しなさい」
「あっ!!!あうぅ…!!」
ミルクティー、レモン水、スープ、少しのワインを濾過した水が、パンクして勢いよく迸る。ニアはごくごくと喉を鳴らして、それを飲み込んだ。メロの思考は放尿の快楽と羞恥で支配され、無意味な声が零れ出る。目には何も映らない。からだじゅうに鳥肌が立っていた。腹にニアの手の重みと温かみを、ぼんやり認識していたかもしれない。
ニアはこのような行為は勿論初めてだったが、撫でているメロの腹が放出と共にへこみ、もとのスレンダーに戻っていくのを眺めながら、言いしれぬ興奮と愛おしさを感じていた。飲み込み切れず零れていく水分さえ勿体ないと思った。そして、そんな自分に特別、疑問は抱かなかった。自分はメロの全てを受け止めて愛しているという充足感があるだけだ。

いつまで続くかと思われたそれはようやっと収まって、ニアはびしょ濡れになった顔を上げた。メロは目元を腕で覆い、耳まで真っ赤になり荒い呼吸を繰り返している。泣いているのだろうか。恥ずかしさで死にかけているメロの姿は、ニアを興奮させるだけだった。
「…今度は私の番です」
大股でメロの顔面に腰を屈め、かつて無いほど張り詰めた性器をメロの口元に宛うと、メロは朦朧としながら何かを言おうとして唇を動かした。それだけの刺激で、あうっと大声を上げ、ニアは全身を痙攣させて、大量の精液を吐き出した。
「ぶっ…!!」
突然流れ込んできたそれにむせかえって、メロは激しく抵抗した。
「けほっ、…っ、へ、へんたい、この…んぐ」
抵抗、とはいえ疲労でぐんにゃりしているメロは、呆気なくニアに押さえつけられ、二度目の口付けによって、流し込まれたニアの体液を飲み込むはめになった。
苦みが消えてもニアは唇を離さない。優しくついばまれるたび、メロは感情をひとつひとつ放棄した。そうするのが今は一番いいような気がする。次第にメロはおとなしくなり、ゆるい舌に身を任せていた。



裸で抱き合ってニアと眠っているところを、エレベーターのドアが開き宿泊客に見つかり失禁する、という夢を何度も見て、そのたびにメロは飛び起きた。
時刻は正午をまわったところだろうか。
早朝、やっとメンテナンスに連絡がつき、無事エレベーターは動いた。
まるで裏町そのもののような饐えた匂いをぷんぷんまき散らしながら出てきた二人を、ホテルマンは見て見ぬふりをした。一時間もしないうちにクリーニングサービスが来てエレベーター内のマットを換え、掃除をしているのを見かけた。
今、隣にはニアが眠っている。神経の図太い男だとメロは思う。
朦朧としていた割にはっきり覚えている、エレベーター内の異常な情事。さっさと忘れてしまいたいが、多分こいつは味を占めてまた同じことを要求してくるに違いない。気持ちがよくなかったかといえば嘘になる。溜まりたまった欲望を爆発させるのは、いつだって快感だ。そんな事を思う自分に、メロは嫌気が差した。

振り払うようにああ、と大袈裟に伸びをし、メロは乱暴にサイドテーブルのメニューをひっ掴んだ。涼しい声を装ってフロントに電話をかける。正直食欲はあまり無かったが、とにかく日常に戻りたいとメロは願った。ニアの持ってきた金はまだ沢山残っている筈だ。
「ルームサービスを頼む、アイスクリームと、ピザ…サラダも、あと…」
ミルクティー、と言いかけて、慌ててミネラルウォーターに訂正した。







〈完〉




〈2005/08/18〉
ちま子さん(仮)より宿泊料として(?)頂きました、にょ(ry小説です。
寝ている佐々原の横で、何かに取り付かれたように6時間飲まず食わずで執筆されておりました…。
なんとちま子さん(仮)の初書き小説らしいです。何かと貴重な小説です。
初めての文章でこれだけすごい小説が書けるとは漫画描きさん恐るべし……!
余談ですが、午後の光の差し込む部屋でタイトル↑の黄色を試行錯誤しているときの佐々原はとても輝いていたことでしょう。

書いている最中ちま子さん(仮)が「メロが可哀想〜」と言い出したので、「情けは禁物ですよ」と助言をしましたが、読んでみると本当にメロが可哀想で半笑いでした。しかも
全部自分のせいなだけに余計気の毒です…。これからはトイレに行くたびに「メロ、ごめん」と念唱します。

ちま子さん(仮)ありがとうございました!






付録...ちま子さんの興奮ニア

 生々しくて大好きです。