郷愁−Nostalgia− 〈1〉
「・・・・・だからさぁ、俺たちも・・・」
聞こえるか聞こえぬかの話に注意が行ってしまったのは、話の中の何かが嫌でも耳についたからだった。
就寝時間の前、狭い宿舎の中で少年たちは思い思いに体を休めていた。
ナブカは研いでいたナイフを鞘にしまい、斜め後方で車座になっている集団に近づいた。
隣で同じようにナイフを研いでいたブゥは、何事かと急に立ち上がったナブカを視線で追う。
「何の話をしている?」
車座になっていた少年たちははじかれたようにナブカを見上げた。「げっ」「やべぇ」と口を押さえながら。
「まぁま、こいつだって参加したいんだろ」
輪の中心にいたタブールがニヤリと笑う。
無表情で、ナブカは返す。
「だから何だ。はっきり言え」
「はっきり言うなら簡単だ。こっちのことだ」
言いながら、タブールは自分の腰を軽く叩いた。こうした冗談は大人の兵から学んだものだろうか。
少年たちは笑い、ナブカは少しだけ顔をしかめた。
「いっこ上の隊の奴らがさぁ、やっちまったらしいんだよ。女牢のやつを」
タブールはにやにやと続ける。慣れた口振りを装ってはいるが、聞いて覚えたような台詞回し。
彼らの中では、そういったことに長けているのが、一つの自慢でありカリスマであった。
だからわざと、知ったような口振りをする。
「前線の兵隊の部屋から連れて帰るときあるだろ?そんときに空き部屋に連れ込んで・・・」
ごくり、とつばを飲み込む音が聞こえた。
近隣の村々から、子どもたちとともにさらってきた女の数には限りがある。
より強い子どもを作る為、女が割り当てられるのは個室を与えられている若く熟練した兵隊だけだった。
決められた時間に兵の個室へ女を連れて行き、また牢へ連れて帰るのは少年兵の役目である。
倒錯した状況の中でも、味わったことのない性の匂いに興味や欲求を覚える者は少なくなかった。
少年の一人がナブカの方に身を乗りだした。
「けっこうばれないらしいぜ。女たちが何言ったって誰も聞きゃしないし、あの時間は人もまばらだろ。何人かでやれば・・・」
誘っているのだ。計画に。まるで軽いいたずらにでも誘うように。
ブゥは話の内容がよく分からないらしく、当惑した表情で事の成り行きを眺めている。
ナブカはいっそう眉をひそめた。
「なぁナブカ、おまえ」
「ろくでもないな」
静かに、しかしはっきりと切って捨てる声。
「いいか。くれぐれも余計なことはするな」
ナブカはそう言い放つと車座から離れてブゥの隣に戻り、再び鞘からナイフを取り出した。
呆気にとられていた少年たちは、ナブカにくってかかる。
「なんだよ!あの女たちに何したって、ハムド様が困るわけじゃねえだろう!」
「間違って俺たちの子どもでも孕まれてみろ。充分国の損害だ。今は前線の兵の、強い子どもが必要なんだ」
ぐっ、と少年たちが口を詰まらせる。
自分たちには遊び半分でも、子どもが出来てしまう行為なのだということが、意識の中から抜けていたに違いない。
「第一、上官たちが命令されてない行為を許すわけがない」
ナイフを研ぐ手は休めずに、ナブカは言う。
それ以上の追撃をする勇気は、少年たちにはないようだった。
誰ともなしに、部屋を出ていく。場がしらけてしまったのだろう。
中心にいたタブールもおっくうそうに腰を上げる。
そのまま部屋を出ていこうとし、戸口の所で振り返った。
「へっ、いい子ぶりやがって!聖人君子って訳でもねぇだろう!」
『聖人君子』という言葉が、胸に突き刺さった。
横目で見ると、タブールはもういない。
ナブカは軽くため息をついた。
「ねぇ、ナブカ。今の、何の話だったの?」
無邪気に尋ねるブゥに、ナブカはいつもの厳しい顔に戻る。
「何でもない。俺たちには関係のない話だ。手元を見ないと手を切るぞ」
「う、うん」
ブゥはあわてて作業に集中を戻した。
もはやナイフを研ぐ音だけが部屋に満ちる。
ブゥは、いつもナブカの嫌がることには触れない。それで安心する。
単調な作業の中で、ナブカはいつものペースを取り戻していった。
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でもまぁ、そんな話です。小説なんて書くの生まれて○度目なんで、展開が早いとかその辺はご容赦願います。
しかしヘリウッドってかなり臭いきついんだろうなぁ。
水がないからシャワーなど浴びれないだろうし。砂浴び、とか乾布摩擦、とかだろうか。
臭すぎて性欲など感じている余裕はあるのでしょうか。
「ナブカだけは花の香りv」などというつもりは、もちろんありません(にこり)。