手の中の帰途 〜おまけ〜
「・・・ぅ」
橙に照らされた部屋に湿った音が響く。
その音も、瞬く間にごぅという機械音に吸い込まれて消えた。
深く重ねた唇をいったん離し、再び角度を変えて口付ける。
「・・っは。・・・おい、少し待て」
ナブカは少し苦しそうに息をつく。
部屋に入るなり、待ちかまえていたかのように唇を貪られ、文字通りナブカは閉口していた。
タブールはナブカの腰に手を回したまま、唇を離す。
「何日待たされたと思うんだ。これ以上待てるか」
そう言ってタブールはナブカの細い首筋に噛みつく。ナブカはびくんと首をすくめた。
そうこうしている間にも、上着の裾から不埒な手が侵入している。
後ろにもたれかかろうにも、その背には扉で。ナブカは不自由な体をきしませる。
「ま、て。ここじゃ・・・」
タブールの上衣を掴んでにらみつけ、ナブカは抗議の意を示した。
それに気づいたタブールは、仕方ないと言った感じで身を離すと、慣れた手つきで扉脇の木の棒を取っ手に渡した。
心許ない錠だとは思う。でも何故かそれをすると、外界からまったく解放された気分になる。
タブールはくるりと振り返ると、ナブカの体をいつものマットレスに押し倒した。
こんな風にがっつかれるのはないことだったから、ナブカの調子が狂う。
こうしたとき主導権は渡さないつもりだったのに、今日は勢いに流され、いいようにされてしまっている。
――― 一度頼ることを覚えてしまったからかもしれない。
上衣をはがされ、いつもよりも強く舌を当てられる。
その感覚にナブカはは、と息を漏らした。
初めてタブールに触れられたときは、その指など体にまとわりつく空気のような存在だった。
しかしその愛撫があの男のように己の快楽を満たす為ではなく、自分に快楽を与えようと行われていることを知ったときから、ナブカは極力タブールの舌や指に意識を集中させるようにしていた。
初めの頃タブールの指は辿々しかったが、だんだんとナブカの知らなかった感覚を引き出すようになってきた。
気持ちいいようなむずがゆいような感覚。
快か不快かは分からないが、ナブカの中の性は本能のままに高ぶった。
そんな自分を見せたくなくて、ナブカは出来る限り普段と変わらないようにしている。
声を殺し、息を殺し、眉をひそめて耐える。
でも決してそうされるのが嫌なわけではなかった。
「お前さ」
タブールはナブカの胸から唇を離してナブカを見る。
ナブカはうっすらと目を開けて応じた。
「俺にこうされるの、気持ちいいのか?」
そう聞かれてナブカは答えに詰まる。
うなずくことも、首を振ることもためらわれて、その結果、ふいと横に視線を逸らした。
否定も肯定も出ないのは、肯定してるからだよな。
タブールは勝手にそう解釈して、ナブカの下肢に手を伸ばす。
「!」
いきなり自身に触れられて、ナブカは小さく息をのんだ。
タブールはそのまま手を上下に動かす。
「まぁ、気持ちよくなかったらこうはならねぇと思うけど」
「・・・っ」
は、は、と息を漏らして、ナブカは必死に感覚を外に逃がす。
そんな様子を見て、タブールはいきなりナブカの唇を塞いだ。
「!・・・なに」
「声聞かせろよ」
快感と当惑とにうるんだ瞳をのぞき込み、タブールはナブカ自身に添えた手を一層激しく動かした。
「っ!あ・・・」
突然のことにナブカは身を縮こまらせる。
無意識に両腕が顔の前に伸びたが、タブールはそれを許さずその腕を押さえつけるとナブカの顔をのぞき込んだ。
ナブカは一瞬泣きそうな顔をしたが、顔を見られるよりはまし、と判断したのか、タブールの肩口に顎を乗せた。
そのまま頭に腕を絡める。
達するときの顔が見られないのは残念だが、耳元で聞こえるナブカの荒い息づかいはタブールを興奮させた。
「は、ぁ・・・ぁっ・・」
少しうわずった声とともに、ナブカはタブールの手の中に吐精した。
その声は相変わらず控えめだったが、いつもより大きかったように思う。
その証拠に、半身を離してナブカの顔を見ると、恥じらうようにふいと横を向かれた。
かわいい。
タブールはついそう思ってしまう。
ナブカの体を持ち上げると、あぐらを掻いた自分の上にまたがらせる。
そうした格好は初めてだったが、どうせなら先程のように耳元でナブカの声を聞きたいと思ったのだ。
慣れない格好とその羞恥にナブカは顔を赤らめたが、ためらいつつもタブールの肩に腕を回した。
「く・・・は・・・・」
ナブカは少し苦しそうな声を漏らしながらも、大きく息を吐いてゆっくりとタブールを受け入れていく。
その声と感触に、たまらずタブールはナブカの体を揺すぶった。
「ひっ、ぁ・・!い、た・・・・」
ナブカが抗議の悲鳴をあげる。
まだ慣れてもいないのに動かれたのだから当然だろう。しかし待ってやる余裕はタブールにはなかった。
そのまま強く律動を続けると、ナブカはう、ぅと声を漏らしながらタブールにしがみついて耐えた。
できるだけ衝撃を逃がす為だろう。それでも、抱きつかれてタブールは少し満足だった。
そうして少しの間タブールはその感触に没頭した。
「あ、は、ぁ・・・」
しばらくすると、ナブカの声にいつもと違う色が混じり始める。
おや、と思うと、いきなり肩口を強く掴まれた。
「痛って!な、何――」
「ちょ、ちょっと待て・・・」
せっかく没頭していたのにと抗議の声を上げかけると、頬をすっかり紅潮させたナブカが目に入った。
交わったまま、ナブカは必死で息を整える。
その様子にタブールは我知らず見とれた。
「何か・・・違う、こんなはずじゃ・・・・・・」
潤んだ瞳を揺らして、ナブカが言う。
高ぶった声を必死で隠すような、途切れ途切れの口調。
タブールの中で何かがどくん、と脈打った。
前振りなくタブールは自分の上に乗っていたナブカの体をマットレスに押し倒すと、有無を言わさず腰を打ち付けた。
「な、やめ・・・!あ、あ!」
抵抗もろくにできず、ナブカは背を弓なりに反らせる。
こらえきれないといった様子で、ナブカは声を漏らし続ける。
タブールが動くたび、まるで堤防が崩れていくようにナブカの中に快楽があふれ出していった。
こんなことは今までにないこと。
まるで自分が崩れていくようで、ナブカは恐怖を感じ、タブールに夢中でしがみついた。
そうすると、タブールと自らの体に挟まれたナブカ自身も余計に刺激を受ける。
「ぁあっ!あ、く・・・ぁ」
「はっ・・」
夢中でナブカの体を貪っていたタブールにも限界が近づいた。
自分の下で恍惚とした表情であえぐナブカに、タブールは唇を寄せる。
「ん・・・ぅ」
そのまま口づけると、ナブカも舌を絡めて応じた。
唇を離すと、唾液が名残惜しげに糸を引く。
「っ!」
次の瞬間、タブールは一層深くナブカの体を穿ち、その中に欲望を吐きだした。
「ぅ、あぁぁっ!」
吐き出されたものの熱さに、ナブカもひときわ高い嬌声を上げて、果てた。
くったりしてしまったナブカの体から身を離し、タブールはナブカの顔を覗きこんだ。
「大丈夫か?」
つい我を忘れてしまった。
ナブカは目に涙をためて荒い息をつき、体を小刻みに震わせている。
タブールなど視界に入っていない様子である。
やばい。やりすぎたか。でもあれって嬌声だよな。
そう思ってタブールは下の方を見る。自分の腹もナブカの放ったもので濡れていた。
最後は触れてもいなかったのに。こんなことは今までにない。
「おい、しっかりしろ」
タブールはナブカの頬を軽く叩く。
その瞳にすぅっと光が戻った。
視界にタブールの顔を捉えると、みるみるその頬が赤く染まる。
そしていきなりばっと身を翻したかと思うと、反対側を向いてぼろ切れで自分の体を清めだした。
「あ、俺にも貸してくれ。お前のでこんな・・・・」
と自分の腹を指さすと、ナブカが向こうを向いたまま怒鳴った。
「うるさいっ!言うな!」
ナブカがそんな風に声を荒げるのは珍しい。
その耳がまだ赤い気がする。
その姿に悪戯心が湧いて、タブールはナブカに背中から抱きついた。
「ずいぶんよかったみたいだな」
「・・・!」
ナブカはタブールをきっとにらみつける。
「こっちが驚くくらいだったぜ。あんなんなったの初めてだろ?」
「離れろ!早く拭け!」
殴るような勢いで顔の前にぼろきれが突き出される。
おっと、とタブールはそれをかわす。
「拭いてくれねぇの?」
「ふざけるのもいい加減にしろ」
ナブカは早々に乱れた着衣を整え出す。あーあ、と思ったがタブールは素直に身を清めだした。
「・・・結局お前、話なんか一つもしなかったじゃないか」
ナブカが向こうを向いたままぼそりとつぶやく。
「今してるだろ?」
タブールは上機嫌で答える。
ナブカは少しだけこちらを振り向いて、ふ、とため息をついた。
呆れ顔と、微かな微笑。無意識だろうか。
ぐいと強引にナブカを抱き寄せる。
腕の中の体は少し暴れる。
「離せ。もう帰る」
「嫌だね。帰るから」
双方向の快楽。
対等さ。
会話。
抱き合うということ。
「こういうのが大事なんだ。多分」
やっちまいました。
「手の中の帰途おまけ」、ファイル名“tabnabero”です。
タブナベロ。なんだかメキシコ代表のサッカー選手みたいですね。
最初から最後までえろかいたの初めてです。玉砕。勢いに任せて。
需要と供給が一致してないというのは辛いものですね。私のこのあふれる程の需要に対して供給はゼロ。つい自給自足の道を歩んでしまいました。
〈1〉の最初にあった、タブールの独白の答えはこういうシチュエーションでないと解決できないのよといういいわけをしてみたり。
実は〈2〉が書き上がる前にこのおまけが完成していたというのは秘密です。死。
まぁこんな稚拙なSSよりも、私は13話のあのシーンの方がエロいと思っておりますが。
私だけ?
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