郷愁−Nostalgia− 〈3〉
「おい」
ざわざわという喧噪の中で、タブールは目的の人物を見つけ、声をかけた。
石に腰掛け、乾きを潤す為の木の枝をかじっていたナブカは、ゆっくりとこちらを見る。
ヘリウッドから少し離れた砂漠の真ん中。特別に設けられた訓練所で、少年兵達はしばしの休息を取っていた。
先程まで障害物競走のようなコースを休むことなく何周もさせられていた。
倒れるようにへばっているもの、本当に気を失っているもの、余裕を残して仲間と話をしているもの、様々だった。
タブールは、自分でも体力はある方だと思っている。こんな訓練ごときではへこたれない。
「何か用か」
同じように、額に汗を光らせつつも涼しい顔をしているナブカが、口から枝を離して応じた。
「お前さ、昨夜・・・・」
そこまで言って、タブールは言い淀んだ。
教官室で何してた、だろうか。なんであんなとこにいた、だろうか。
なんと聞いていいのか分からない。
考えとともに視線を巡らせると、ナブカの隣にブゥがいたことに気づき、なおさら慌てた。
ブゥはぼろ切れで汗を拭きながら、きょとんとこちらを見ている。おそらく何も知らない。
ますますタブールは言い淀む。
タブールの視線に気づき、ナブカがブゥを振り返った。
「ブゥ、少し離れてろ。こいつと話がある」
「う、うん・・・」
ブゥは素直にうなずき、石の上から飛び降りた。
何度か振り返りつつも、数十メートルほど離れたところでまた石に腰掛ける。
ブゥが去ったことにタブールはほっとした、が、当初の目的はこれからだ。
昨夜は色々考えすぎて、よく眠れなかったのだ。白黒つけないと気が済まない。
「お前、なにしてたんだ。昨夜」
思い切って、聞いてみる。
ナブカは何も答えず、目の前の空間に目線を戻し、再び木の枝をかじりだした。
その態度に少し苛立ちを覚え、タブールは声を張り上げる。
「おいっ」
「何してたと思う」
ぼそっとナブカが言った。目線は宙に浮いたまま。
「何されてた、かな」
答えに詰まる。昨夜感じたもやもやとした感触が、再び鎌首をもたげる。
「・・・・・・・」
「たいしたことじゃない。よくあることだ」
眉一つ動かさない。いつもの無表情。
「女が足りない。知ってるだろ?」
カァと頬に血が上る。もう平手のあとはないのに、頬がじんじんする。
「少年兵の教官なんて、前線の兵に比べれば下っ端だ。割り当てられる女なんて、ない。欲求も、ストレスもたまる。そこに運悪く、俺がいた」
それだけのこと。まるで今日の予定でも読み上げるような抑揚のない声。
木の枝を当てたまま、唇だけがよく動く。
その唇が妙に淫靡に映って、タブールは反射的に視線を逸らした。
じんじんという音は、耳の奥まで届く。
「・・・・でもお前・・・平気なのか・・・・・・?」
ようやくそれだけ言った。
「平気とか平気じゃないとか、そんなことは関係ない。命令なんだから」
ナブカは睨むようにこちらを見て、急に立ち上がった。
そのまま歩き出す。話は終わりだ、ということだろうか。タブールは慌てて道を譲った。
「・・・俺は大丈夫だ」
すれ違いざま、ナブカが言った。
「人形になっていればすむことだ・・・」
その直後、「集合ーー!!!」という号令が聞こえた。
周囲の兵達が慌てて走り出す気配。タブールもそれに続きながら、今の言葉を反芻する。
『人形?』
(最近のナブカはおかしい)
(おかしい)
そして彼を、爆発的な苛立ちが襲った。
〈2〉へ
どっかで聞いたことのある話です。
ところでタブールって、平手のしがいがありそうですよね。
なんか手のあとくっきり付きそう。面積も広いし色も白いし。
その上ほどよくヘタレで、平手をされる為に生まれてきたような少年です。
これからも当サイトではタブールに対し平手を存分に盛り込んでいきたいと思います。
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